東京高等裁判所 昭和43年(う)2547号 判決 1969年6月25日
控訴人・被告人 篁昭平
弁護人 山岸光臣 外一名
検察官 土田義一郎
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は弁護人山岸光臣、同高木国雄共同作成の控訴趣意書、同補充書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官土田義一郎作成の答弁要旨記載のとおりであるからこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。
弁護人らの控訴の趣意第三点について
所論は原判決は取締警察官作成にかかる現場付近の距離関係等を記載した現場見取図を刑事訴訟法第三二一条第三項の書面として証拠に引用し、有罪の認定をした。しかし現場見取図は同条項にいう検証調書には該当しないし、ことに本件現場見取図は後日にいたり取締警察官が一方的に作成したものでその正確性を保証すべきものは存しないから、同条項によつてはこれを証拠とすることはできず、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違背があると主張する。
よつて検討するに、現場見取図は、通常、実況見分調書に添付されその一部をなすものであるが、それ自体としても実況見分調書に準ずるもので、その作成者が公判期日において真正に作成されたものであることを供述したときは、独立してこれを証拠とすることができると解すべきである(実況見分調書についての昭和三六・五・二六第二小法廷判決参照)。しかして本件現場見取図の作成者である司法巡査中島敏雄は原審公判廷で証人として同図面が真正に作成された旨供述しているので、同図面はこれを証拠に採用することができる。なお同現場見取図が事件より四〇日を経過した後に作成されたのは、取締警察官として被告人が犯罪事実を否認しているとは思わなかつたが、後に上司から否認事件だからといわれて、詳細な図面を作成するようになつたからであり、後日に、従つてまた被疑者の立会なくして作成されたことのため、同現場見取図の証拠能力を否定するのは相当でない。論旨は理由がない。
(その余の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 脇田忠 判事 関重夫 判事 環直弥)
弁護人山岸光臣外一名の控訴趣意第三点
原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続の法令違背があるから、原判決は破棄さるべきである。
(一) 原判決にはその理由中に、取締警察官両名作成の現場附近の距離関係等を記載した図面を引用して公訴事実を認定している。
(二) 原判決は右図面を刑事訴訟法第三百二十一条第三項該当の書面として証拠に引用したのであるが、かかる図面は右法条に所謂検証調書には該当しないと云うべきであるし、又本図面自体取締警察官自身が認識した結果を後日に至つて自から一方的に作成したもので、記憶、観察、記述にその正確さを保証すべきものは何もないし、パトカーに乗つて捜査官が経験したと称して作成した図面(調書では絶対にない。)に対しては被告人及び弁護人は何等反対尋問の余地がないものである。
(三) 依つて、原判決は刑事訴訟法第三百二十一条第三項の解釈適用を誤り、右図面を証拠としたものであり、且つ右図面の存在なくしては本件公訴事実は到底立証があつたとは云えず、原判決に影響を及ぼすべきこと明らかであるから、原判決は破棄されるべきである。
(その余の控訴趣意は省略する)。